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過払金返還請求訴訟における問題点(過払い金)

みなし弁済

昭和58年、貸金業の規制等に関する法律(現在の貸金業法)が制定された。同法は、貸金業者に対する登録、規制を強化するのと引換えに、貸金業者に対してみなし弁済(みなしべんさい)という恩典を与えるものであった。すなわち、同法43条は、次の要件を満たす場合には、制限超過利息の支払を有効な利息債務の弁済とみなすと規定している。

みなし弁済が認められると、前記の最高裁昭和39年による元本に対する充当が認められないので、貸金業者は自己の計算どおりの貸金を請求することができ、過払金も発生しないことになる。

判例は、この貸金業法が成立して以来、17条書面・18条書面に当たるかを厳しく解釈したり、「遅滞なく」、「直ちに」という要件を厳しく解釈したりすることにより、借主を保護しようとしてきたが、支払の任意性については緩やかに認める傾向にあった。

しかし、最高裁は、平成18年になって、期限の利益喪失特約(借主が約定利息の支払を怠った場合には期限の利益を喪失し、残元本を一括返済しなければならないとの特約)がある場合には、借主は期限の利益を喪失しないよう支払をせざるを得ないので、原則として支払の任意性がないとの判断を示した(最判平成18年1月13日・民集60巻1号1頁・判例情報)。消費者金融業者の貸付けには通常期限の利益喪失特約が付されているので、この判決の影響は大きく、今後、みなし弁済の適用を主張することはほぼ不可能になったといえる。

この判決が一つのきっかけとなって、グレーゾーン金利見直しの論議が高まることになった。

 

過払金の利息

過払金は民法上の不当利得の規定(民法703条)に基づくものであるから、貸金業者が悪意の受益者であれば、利息を付して返還しなければならない(民法704条前段)。

債務者側は、貸金業者は制限超過利息であることを知って弁済を受けているから貸金業者は悪意の受益者に当たると主張するのに対し、貸金業者側は、みなし弁済が成立すると信じて弁済を受けたのであるから善意の受益者であり、利息の返還義務を負わないとして争うことがある。

この点について、最判平成19年7月13日(民集61巻5号1980頁・判例情報)は、「貸金業者が制限超過部分を利息の債務の弁済として受領したが、その受領につき貸金業法43条1項(みなし弁済)の適用が認められない場合には、当該貸金業者は、同項の適用があるとの認識を有しており、かつ、そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り、法律上の原因がないことを知りながら過払金を取得した者、すなわち民法704条の「悪意の受益者」であると推定される」と判示し、請求する側が貸金業者の悪意を立証するのではなく、貸金業者がみなし弁済規定の適用があると信じ、かつ、そう信じたことについてやむを得ないといえる特段の事情があることを立証しなければならないとした。

この立証は、相当に困難であると思われ、事実上、貸金業者が善意の受益者であると判断される可能性はかなり低くなったといえよう。

なお、悪意の受益者であるとされた場合に、貸金業者が過払金に付して返還すべき利息の利率について争いがあった。すなわち、過払金は民法の不当利得の規定によって発生するものであって、商行為によって生じた(商法514条)ものではないから民法所定の年5%(民法404条)とすべきであるという説と、金融業者は過払金を6%以上の高利で運用することができるから、商事法定利率年6%(商法514条)とすべきであるという説が分かれていた。この点については、最判平成19年2月13日(民集61巻1号182頁・判例情報)が、年5%とすべきであるとの判断を示し、実務の取扱いが統一されることとなった。

最高裁判所判例
事件名 過払金等請求事件
事件番号 平成16(受)965
2005年(平成17年)07月19日
判例集 第59巻6号1783頁
裁判要旨
貸金業者は,債務者から取引履歴の開示を求められた場合には,その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り,貸金業の規制等に関する法律の適用を受ける金銭消費貸借契約の付随義務として,信義則上,その業務に関する帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負う。
第三小法廷
裁判長 濱田邦夫
陪席裁判官 上田豊三、藤田宙靖、堀籠幸男
意見
多数意見 全員一致
意見 なし
反対意見 なし
参照法条
民法1条2項,民法587条,民法709条,貸金業の規制等に関する法律19条,貸金業の規制等に関する法律施行規則16条
 

取引履歴の不開示

借主が、何年何月何日、いくらの借入れ・返済をしたかの記録が残っていれば、過払いになっているかどうか、またその額を計算することができる。また、過払金請求訴訟における証拠としても取引履歴が必要である。しかし、長年にわたって借入れと返済を続けた借主の手元には、そのような記録が残っていないことが多いので、金融業者に取引履歴の開示を求める必要がある。

しかし、金融業者は、法令上取引履歴の開示義務を定めた規定はないことなどを理由に、取引履歴の開示に応じないことも多かった。

そこで取引履歴の開示義務が認められるかについて、下級審の判断が分かれていたが、最高裁は、貸金業者は債務者から取引履歴の開示を求められた場合、原則として取引履歴を開示すべき義務を負い、これに反して取引履歴の開示を拒絶したときは、不法行為となるとの判断を示した(最判平成17年7月19日・民集59巻6号1783頁・判例情報)。

この最高裁判決の後も、金融業者が古い取引履歴を廃棄したなどとして開示に応じないことも考えられるが、その場合にどのように過払金の額を計算するかは、大きな問題として残っている。

 

過払金の充当

貸金業者と借主との間の消費貸借取引においては、借主が借換えや借増しを行ったり、いったん貸金を完済した後に再び借入れを行ったり、複数の系列の借入れを行ったりすることが多い。この場合、ある貸金の返済で発生した過払金を、他の貸金債務に充当することができれば、その貸金債務に対する元本や利息を減らすことができ、返済額の減額や最終的な過払金の額の増加につながる。また、10年以上前の返済によって発生した過払金の場合、他の貸金債務に充当されないとすれば時効によって消滅してしまうのに対し、他の貸金債務に充当されるとすれば、より多くの過払金が生じることになる。このようなことから、訴訟において充当の可否をめぐって争われることが多くなってきた。

なお、借主が、民法506条1項により過払金を自働債権として、借入金を受働債権として相殺し、同条2項により遡及効を主張しても、相殺の意思表示をした時点で受働債権が弁済によって既に消滅している場合は相殺ができない。

過払金の利率も決着がついた今、過払金問題の最大の争点はこの点であろう。

最高裁判所判例
事件名 不当利得返還等請求事件
事件番号 平成20(受)468
2009年(平成21年)01月22日
判例集 なし
裁判要旨
継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が,利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合には,上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は,特段の事情がない限り,上記取引が終了した時から進行する
第一小法廷
裁判長 泉徳治
陪席裁判官 不明
意見
多数意見 不明
意見 不明
反対意見 不明
参照法条
民法166条1項,民法703条,利息制限法1条1項
 

基本契約がある場合

最判平成15年7月18日(民集57巻7号895頁・判例情報)は、「同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付けが繰り返される金銭消費貸借取引において、借主がそのうちの一つの借入金債務につき法所定の制限を超える利息を任意に支払い、この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合、この過払金は、当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り、民法489条及び491条の規定に従って、弁済当時存在する他の借入金債務に充当され、当該他の借入金債務の利率が法所定の制限を超える場合には、貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができない」と判断し、基本契約のある場合の他の債務への過払金の充当を認めた。例外的に充当を認めない特約の存在の立証責任は貸主側にあることになろう。

しかし、この理論でいっても、弁済によって過払金が発生しても、その当時他の借入金債務が存在しなかった場合には、上記過払金は、その後に発生した新たな借入金に充当できるか問題となる。なぜなら、過払金発生時に充当すべき債務が存在しないからである。最判平成19年6月7日(民集61巻4号1537頁・判例情報)は、カードローンのリボルビング方式について、借入れが別個であっても、同一の基本契約に基づく新たな借入れがあった場合、弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものとして過払金発生後の債務への充当を認めた。この場合の合意の存在は、借主側に立証責任があることになろう。

この判例が出た後、時効の起算点についても問題となった。継続的な金銭消費貸借取引においては長期間に及ぶことから、時効の起算点をいつにするかによって過払金の額が大幅に異なることになる。貸金業者側は、過払金が発生した時点で、過払金を請求することができるのだからその時点から時効が進行すると主張しており、一部の下級審でこの考えをとった裁判例も存在した。この点について最判平成21年1月22日は、貸金業者側の主張を退け、原則として取引終了時を時効の起算点とすると判断した。その理由として、過払金充当合意には一般には、借主は基本契約に基づく新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点、すなわち、基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引が終了した時点で過払金が存在していればその返還請求権を行使することとし、それまでは過払金が発生してもその都度その返還を請求することはせず、これをそのままその後に発生する新たな借入金債務への充当の用に供するという趣旨が含まれているものとされる。そうすると、過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては、同取引継続中は過払金充当合意が法律上の障害となるというべきであり、過払金返還請求権の行使を妨げるものと解するのが相当である。したがって、過払金返還請求権について上記内容と異なる合意が存在するなどの特段の事業がない限り、取引終了時を消滅時効の起算点とすると判断された。

基本契約がない場合

これに対し、過払金に対する利息の利率を5%と判断した前記最判平成19年2月13日は、同時に、基本契約のない金銭消費貸借取引(第1貸付け)において生じた過払金(第1貸付け過払金)が、その後にされた別の契約による金銭消費貸借取引(第2貸付け)に充当されるかについて、次のように判示した。すなわち、基本契約を締結していたのと同様の貸付けが繰り返されており、第1貸付け時に第2貸付けが想定されていたとか、別途充当に関する特約があるなど特段の事情がない限り、第1貸付け過払金は、第1貸付けに係る債務の各弁済が第2貸付けの前にされたものであるか否かにかかわらず、第2貸付けに係る貸金債務には充当されないとした。

つまり、借入限度を定めた基本契約においては、完済後もしばらくの間は事後の借入れが予定されており、借主が再度融資を受けたとしてもお互いそのつもりだろうが、基本契約がない場合は、貸主も借主も通常そんなことは考えていないだろうから、貸主と借主の間で再度の融資の予定や充当する合意を窺わせるような事情がなければ充当されないということである。そして、そのような特段の事情の立証は借主側に課されていることになろう。

そのような特段の事情が認められない場合、過払金は金銭消費取引ごとに計算される(充当されない)ことになり、貸主は元本に利息制限法所定の利率をかけた利息を受領できるから、過払金は減少することになる。

最判平成19年7月19日(民集61巻5号2175頁・判例情報)は、基本契約は存在しなかったが継続的に借換え・切替えが行われて新債務への充当の合意があったとされた事例で、1回だけ「完済」がなされ契約が途切れていたが、その間が3か月であった事例であり、返済と新たな借入れの期間が密着しているとして1個の連続した貸付取引であると評価することができるとし、新たな借入れについての債務に過払金を充当できる合意があるとして、充当を認めた。この判決で、基本契約がない場合でも1個の連続した貸付取引があるとすれば、充当が認められることが明らかにされたといえよう。

さらに、この判決の基準をより具体化する最高裁判決が平成20年1月18日(判例情報)に出された。この事例は、基本契約は存在したが1回断絶し新たな基本契約を締結した事例である。本件では新債務への充当の合意の要件として2つの基本契約が事実上1個の連続した貸付取引と評価できるかが問題となった。

同一の貸主と借主との間で継続的に貸付けとその弁済が繰り返されることを予定した基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務の各弁済金のうち制限超過部分を元本に充当すると過払金が発生するに至ったが、過払金が発生することとなった弁済がされた時点においては両者の間に他の債務が存在せず、その後に、両者の間で改めて金銭消費貸借に係る基本契約が締結され、この基本契約に基づく取引に係る債務が発生した場合には、第1の基本契約に基づく取引により発生した過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するなど特段の事情がない限り、第1の基本契約に基づく取引に係る過払金は、第2の基本契約に基づく取引に係る債務には充当されないと解するのが相当であるとしている。

そして、上記合意が存在するかは第1の基本契約に基づく貸付け及び弁済が反復継続して行われた期間の長さやこれに基づく最終の弁済から第2の基本契約に基づく最初の貸付けまでの期間、第1の基本契約についての契約書の返還の有無、借入れ等に際し使用されるカードが発行されている場合にはその失効手続の有無、第1の基本契約に基づく最終の弁済から第2の基本契約が締結されるまでの間における貸主と借主との接触の状況、第2の基本契約が締結されるに至る経緯、第1と第2の各基本契約における利率等の契約条件の異同等の事情を考慮して、第1の基本契約に基づく債務が完済されてもこれが終了せず、第1の基本契約に基づく取引と第2の基本契約に基づく取引とが事実上1個の連続した貸付取引であると評価することができる場合には、上記合意が存在するものとされ、第1の基本契約に基づき発生した過払い金を元本への充当が認められるとしている。

この事例では、第1の基本契約と第2の基本契約の間に3年の空白があり、利率等に若干の違いがあるとして、直ちに事実上1個の連続した貸付取引とみることはできないとして、原審に差し戻している。

このように、充当に関し事実上1個の連続した貸付取引とみるかどうかは、個別に判断するとの最高裁の判断であり、この点をめぐり時効の問題も絡んで争われることが予想される。

なお、利息制限法は、暴利を禁止し、借主の保護を図る強行法規であるから、その適用に関しては形式的な貸付額を基準とすべきではなく、貸主が実質的に拠出したといえる金額を基準に適用すべきとの考え方がある。たとえば、古い過払金と新しい貸付金の相互の充当を認めなければ、過払金と貸付金が両立することになるが、この場合、法律上、貸主が実質的に拠出しているといえる金額は、貸付金から過払金を引いた金額であるから、利息制限法の適用に際しても、その額を基準として制限利率で計算した金額が徴収できる上限であり、形式的な貸付額を基準として利息を計算することは、実質的にみて利息制限法を潜脱することになり、許されないとの考え方である。

この見解に立てば、貸付額から過払金を引いた額に対する18パーセントの利息以上の利息を徴収することはできなくなるため、充当についてどう解釈しても、結果として、過払金の額は変わらなくなる。

過払金と税

自治体が、税金の徴収目的で、消費者金融に対し、過払金の返還を求める訴訟を起こすケースがある。こうした訴訟は、神奈川県、静岡市、兵庫県芦屋市、山口県下関市など、30以上の自治体で起こされている。このうち、芦屋市が、市税を滞納している男性がプロミスに返済した過払金について、同市が滞納者に代わって同社に返還を求めて西宮簡裁に訴えた訴訟で、同簡裁は2008年6月10日に、同市の主張を認め、過払金約31万円を同市に支払うよう命じる判決を言い渡した。税徴収目的での過払金の返還を命じる判決は、この判決が初のケースとなる。

 またその反面、悪意の受益として5%の利息を付して返還金を利得した者の、その利得自体が課税対象になるかどうかといった問題も散見される。

 

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